そろそろボクの話をしようか

歳をとらない語り部が見てきた、名もなき人々の暮らし

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平安の世から、いまへ。食べ物、言葉、信仰、衣服——名もなき人々の暮らしが「文化」になるまでを、歳をとらないボクが見てきました。本当かもしれない、千年の覚え書き。各話は独立して読めます。

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文化室町

野の祭りで人を笑わせた物真似が、橋がかりを渡って幽玄の舞となった日のこと

里の笑いを取っていた猿楽者は、なぜ面の下で息をひそめ、幽けき舞へと身を移していったのか

135
道具鎌倉

石と鉄を打ち合わせるだけで、人が火を「いつでも起こせる」ようになった日のこと

火種を絶やした男が、なぜ隣家へ走らず、懐の小さな石と鉄を取り出したのか

134
道具室町

骨に紙を貼ったただの仕切りが、絵を負って部屋の「面」になっていった日のこと

借りものの屋形で、絵師はなぜ動くだけの仕切りに、消えてゆく松を描いたのか

128
衣服鎌倉

野良着であったはずの一枚が、武家の背に「格」を負って正装へ上りつめた日のこと

たやすく着られて働きやすい、それだけの衣が、なぜ武士の誉れを背負うことになったのか

126
鎌倉

渋くて食えぬ実を軒に吊るした男が、ひと冬かけて甘さを待った日のこと

口がしびれるほど渋い実を、なぜ捨てずに皮を剥いて軒へ吊るしたのか

125
室町

羊の汁と呼ばれた点心が、肉を捨て豆を煮固めて、茶のかたわらの甘味になっていった日のこと

羊の名を負いながら羊の肉を持たぬ一椀は、どうして甘い練り物に化けていったのか

122
文化平安

海を渡ってきた音が、宮の調べになるまで——耳から耳へ手渡された、龍笛のひと息のこと

暗がりのなかで、若い笛吹きは、なぜ譜も見ずに、師の息づかいだけを追いつづけたのか

119
文化平安

負けた歌に、人はなぜ涙したのか——左右に分かれて優劣を競った夜が、和歌を磨いていったこと

たかが遊びの勝ち負けに、なぜひとりの男は、声を失うほど打ちのめされたのか

118
道具平安

米のとぎ汁で、髪は艶をとりもどした——黒髪を命とした世の、ある朝の身づくろいのこと

捨てるはずの白いとぎ汁を、あの娘は、なぜあれほど大切そうに坏へ受けたのか

117
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